
不安のしくみと対処のしかた
不安でしかたないあなたへ

こんにちは。「今日は選択日和」へようこそ。ここまでお越しくださりありがとうございます。
2019年終盤から始まったウイルスの感染拡大によって、わたしたちは経験したことのない状況の中暮らしています。先が見えない状況はわたしたちを落ち着かない気持ちにさせ、長引くほどに、わたしたちをくたびれさせます。見聞きする情報は心配事ばかり。ここのところ、わたしたちはずっとどこかで気を張っていて、自分を休ませてあげることができなくなっているのではないでしょうか。
今、この状態下で不安を感じることは、とても自然なことでしょう。
最初にそれをお伝えした上で、不安や緊張と、くたびれない程度に一緒に暮らしていけるように、今より少し楽になるために、不安のしくみと、2つの特徴、3つの対処のしかたをご紹介していきます。
■不安のしくみ:「不安」はあなたの敵ではありません。不安に耳を傾けて正体を知りましょう。
不安な気持ちでいっぱいのあなたはきっと「不安を抑え込もう、取り除こう」そんなふうに、不安と取っ組み合ってきたのではないでしょうか。意識的にも、無意識的にも。
ここで一度一緒に立ち止まってみませんか。あなたは「適切な不安」に助けられたことがいままでにあったのではないでしょうか。「適切な不安」はあなたに危険回避が必要だと知らせて、あなたを守ってくれる非常ベルみたいなものです。そのおかげで、次に起こることへの心構えをもらったこともあったでしょう。
そう。不安はあなたの敵ではありません。
不安は、わたしたち人類がかつて動物だった頃から有している脳の部分、脳幹が知らせてくれる警告です。古くから、わたしたち生き物が生き延びるための大切な機能です。
不安の特徴としくみ、対処のしかたについて、一緒に知っていきましょう。不安とうまく付き合うことができたら、ほんの少し、今よりも楽に暮らせるのではないでしょうか。
■不安の特徴1:不安は身体感覚を伴って感じられる
「不安」には、いくつかの特徴があります。
ひとつ目は、不安は身体感覚を伴って、あなたには感じられる。という特徴。
心臓がドキドキし、体が震え、脈拍数が上がります。加えて、呼吸が浅く早くあがっていきます。体勢は猫背になり丸く縮こまって、首、肩や背中に力が入ります。人によっては、視界が狭くなり、手が冷たくなったり、汗をかいたりするでしょう。のどが渇くこともあります。
あなたは他にどんな体の変化が起こりますか?観察してみたことはありますか?
■対処のしかた1:体から気持ちを落ち着かせる方法
不安や緊張を感じたら、手順は3つです。
①「体のどこで不安や緊張を感じているのか」体の様子を観察してみましょう。
②緊張や不安を感じる体の部位に手を置きます。手のあたたかさを感じてみましょう。手の重みを感じてみましょう。
③手を置いたところに向かって、呼吸を送ってみましょう。温かい呼吸を意識的に送れることを体感しましょう。
体に触れて、手の温度を感じ、重みを感じることで、身体感覚がよみがえってきます。自律訓練法のエッセンスです。また、呼吸を意識的に送ることで、少しずつ深い呼吸ができるようになります。
もう少し体を動かせそうでしょうか。
④ほんの少し、胸を張って、斜め上を見上げてみましょう。腰に手を当てることはできますか?呼吸をゆっくり続けましょう。
姿勢から気持ちを落ち着かせることができます。肋骨の動きは肋骨上部は前後に、下部は上下に動く特徴から考えても、この姿勢は呼吸が楽になる、理にかなったポーズです。
そばに知っている人はいますか?お願いできる間柄でしたら、手を借りましょう。
⑤誰かに肩に触れてもらいましょう。
⑥あなたの「吐く呼吸」に合わせて、じーーーーんわりと両肩を真下に押すように圧をかけてもらいましょう。吐ききったら、「吸う呼吸」と共に圧を緩めます。あなたの呼吸と共に、数回繰り返します。
とけあい動作法という、なんとも愛らしい名前の付いた方法です。
これらは「体をいつもの落ち着いた状態に戻してあげることで、心を落ち着ける」ことができる方法です。落ち着いた状態の身体感覚に戻していく自律訓練法や、落ち着く行動をとることで気持ちが後からついてくるという行動療法にも似た考え方をベースにしています。
体は心の強い味方です。体はいつも、わたしたちの心を守ってくれます。なんと心強い。
まずは、その体に呼吸と温度を送ってあげましょう。体にいつものペースを取り戻してもらうのです。これは日常生活において、いつでも使えます。
よくあるアドバイスですが「暮らしの中に運動を」これは有効なのだと思います。日常から体への感度を保つことができます。
さて。呼吸と体によって、気持ちが少し落ち着きを取り戻して頃でしょうか。土台ができたところで、ふたつめのステップに入りましょう。次は思考を使います。
■不安の特徴2:不安は漠然としたままだと、やみくもに不安になる
不安は漠然としたままにしておくと、実際よりも大きなものに、あなたには感じられる。という2つ目の特徴があります。
せっかくあなたを守るために、危険な状況を教えてくれている「適切な不安」も漠然とさせたままにしていると得体のしれない「やみくもな不安」となってあなたに襲ってくる。不安にすっかり飲まれてしまう。ああ、こわい。
■対処のしかた2:「やみくもな不安」を「適切な不安」へと落ち着かせる方法
それはズバリ「見える化」です。
やみくもな不安を「見える化する」ための具体的なアクションはふたつ
①不安を細分化すること
②不安を具体化すること
あなたの不安を切り刻んで、チョップして、手に取れるサイズの小さなひとつ、にしてみる。これが細分化です。最初のアクションでしょう。
さあ、次は小さく切り刻んだ不安を手に取ってみます。ひとつひとつ丁寧に確認してみるのです。いろんな角度から見てみましょう。正体を暴いてやるのです。必要があれば書き出してみてもいいでしょう。いっこいっこ。これが具体化です。
■実際にやってみましょう
大きめの紙とペンを用意してみてください。そして、自分の奥のほうに声をかけてみてください。「あなたを安心させたいの。何が不安?教えて」「何があれば落ち着く?何がほしい?」って。細分化し具体化していきます。ひとつひとつ。
ひとつひとつ手に取って、確かめるプロセスの中で、あなたは「やみくもに不安がる」気持ちが落ち着いていくのを感じるでしょう。思考が動き出していきます。
■「やみくもな不安」は「具体的な課題」と「今はまだわからないこと」に仕分けできる
手に負えないあなたを圧倒していたやみくもな不安、が、細分化され具体化されることで、「やるべきこと」「準備すべきこと」「考えるべきこと」などに区分できると想像します。それらを手に取ってみてください。不安、というよりも「具体的な課題」と呼ぶほうがしっくりくることでしょう。そして、ここで最後に残るのが「今はまだわからないこと」というあいまいなもの。
■細分化して具体化したことで現れる「今はまだわからないこと」その前で人がやりがちな「防衛機制」
まだはっきりしない・まだわからない、あいまいな、モヤモヤした、腑に落ちない、違和感がある、そんなはっきりしない落ち着かない状態に留まることが好きな人はいないでしょう。「正体を知って安心したい」と「はっきりしない」の葛藤は人にストレスを与えます。コントロールできない状態が嫌いなのです。
そんな時、不安やストレスから自分の気持ちを守るために、人は無意識に防衛機制を使います。別に行動に替えてごまかします。不安を存在しないことにします。防衛機制にはいろいろな方法があり、ここではいくつかを紹介します。
「合理化」:例えば、きっぱりと黒白つけたがる。無意識で100か0の極端な行動をとってしまう。都合のいい理屈に飛びつく。あの人は〇〇だから自分とは違う。と、相手をカテゴライズして、自分とは属性が違うと区別する。単純にわかりやすい話には注意が必要です。
「隔離」:感情を大きく揺さぶられる出来事を前に、自分の感情を切り離す。感情をマヒさせる。
「否認」:認めたくない事実や不快な出来事を前に、その事実をないことにしようとする。
「反動形成」「抑圧」:例えば非常事態宣言が出て外出禁止という状況下で「大丈夫!大したことない!」と夜の街へ出かける。実際の感情と真逆の行動に突き動かされてしまう。
「置き換え」:学校の先輩からされた理不尽なことを、クラスの友達に同じようにする。感情、思考で消化できないつらい体験を、別の対象へとすり替え、無意識にバランスを取ろうとする。
このように、不安な気持ちを守ろうとする無意識な行動は防衛機制という行動にすり替わります。これらの中に、あなたが経験したことがある防衛機制はありましたか?目にしたことがあるものはありましたか?不安定な時勢ではそこらじゅうで目にすることができるでしょう。あなたのまわりを観察してみてください。きっと見つけられると思います。その背景には、不安・恐れがあるのです。
■細分化して具体化したことで現れる「今はまだわからないこと」を「一時保留」にする技術
無意識の防衛機制の行動に突き動かさずに、どっちつかずのあいまいな状態にある事実を認め、見守るスタンスを取ることができる。そんな在りようとはどんなものでしょうか。
「今はまだわからない」から「一時保留にする」この姿勢は、引き続き丁寧にウオッチして、注意を払っていく、という対処のしかたでしょう。
■対処のしかた3:不確実性に耐えながら状況を見守るという姿勢
それは「不確実性に耐える姿勢」なのだと考えます。あいまいなことをあいまいなままに。あいまいな状態であることを認める力です。一時保留にできる力です。
これはとても健全な姿勢に、わたしには見えます。そして、今のような予想もつかない、未経験の非常事態にこそ、わたしたちを守ってくれる在りようではないでしょうか。
どのようにその技術を磨いたらいいのでしょうか。こういう姿勢を有している人はどんなスキルを持っているのでしょうか。
これはこの世界の不思議でもありますが、自分の内的世界に対する姿勢が、そのままこの世界へ向かう姿勢と一致している。わたしはそう考えます。
とすると、こういった姿勢を有している人は、自分の中に存在するいくつもの矛盾する感情や思考、その間にある葛藤、はっきりしないあいまいなものをその状態のまま、尊重する力を持っているのではないか。そういった矛盾や葛藤を抱えて生きていることに気づいている人、なのではないかと想像します。丁寧に自分を観察し、別の何者かに自分を当てはめてカテゴライズすることなく、ありのままを扱うことができる人。自分に誠実であろうとし、自分をよく世話している人。そんな内的世界を有する人が、自分の外のあいまいさにも、同じ姿勢で臨めるのではないか。そんな風にわたしは考えています。
この姿勢は、わたしたちの暮らしの中で、わたしたちを守ってくれます。例えば、あふれる情報の中で。
■膨大な情報の海で、情報を取捨選択していく時に、自分を守る姿勢でもある
あふれる情報と向き合う時に、情報の受け手であるわたしたちがこの姿勢を意識するは有効でしょう。例えば、不安を掻き立てられるような情報を受け取ったとしましょう。この姿勢を意識的に保った場合、100か0をの極端な行動に突き動かされる衝動を自ら意識的に断ち切ることができるでしょう。それは、自分と人を守ることにつながっていきます。
耳半分で聞く、疑ってみる、別の角度の情報を収集する、リソースの信ぴょう性を調べてみる、などの対処のしかたを選べる背景には、あいまいさに耐える姿勢があることでしょう。
一方で、情報の発信者側に「不確実性に耐える」姿勢が見て取れるのかを確認するのは、自らを守る一つのいい指標かもしれません。端的に黒白つけたがるわかりやすい対立構造をあおる発信を重ねるメディア、多様な意見が飛び交うSNSにおいて、ひとつの勢力を妄信する発信を続ける個人の在りようは、防衛機制の否認の表出でしょう。そこには本人が気づいていない不安や恐れが見え隠れしていると想像できます。そういった発信源からは、わたしたちに有益な情報がもたらされることは期待できないでしょう。距離を取ることをわたしたちは選択できます。
やみくもに不安がり、それに任せた言動があふれる情報の世界。そこから自分を守るには、不確実性に耐える姿勢にしっかりと軸足を置くことが有効でしょう。
まとめです。不安の特徴2つ、対処のしかた3つ、お伝えしました。
1:体から気持ちを落ち着かせる(体の緊張を観察、手で触る、呼吸を送る)
2:やみくもな不安を、細分化・具体化して、適切な不安と取り組むべき課題・保留事項に整理する
3:不確実性に耐える姿勢
ここでご紹介した方法を、カウンセリングの時間で一緒に行うこともできます。わたしとのカウンセリングの時間は、呼吸と体からはじめます。時間をとって、丁寧に見える化して対処したいような不安があるようでしたら、あなたのお話を聞かせてください。一緒にそのプロセスを体験してみましょう。
ご縁に感謝しつつ。
今日は選択日和 いのうえ
それでもまだすっきりしない。そんなあなたへ。
■「極度の不安・過度の心配」とともにいるあなたへ
普段から「社交不安」「対人恐怖」「パニック症状」こういった状態にあるあなたは、この状況下で一層不安が深刻になっていらっしゃるでしょうか。「わたしが不安に陥ると、頭で考えられる状態ではなくなってしまう」そんな方は、こちらの社交不安・対人恐怖と合わせてお読みいただけたらと思います。
そんな「極度の不安・過度の心配」によって体と思考が硬直し、フリーズしてしまうような反応が出ている方へには、極度の不安のメカニズムを理解できるように脳神経系の反射の話をかみ砕いて説明しています。
「極度の不安・過度の心配」は、心身に悪影響を与え、あなたの元来のパフォーマンスを著しく低下させます。それはあなたが過去の出来事・経験において学習してしまった無意識の反射です。今一度、適正領域の中でのみ不安が発動するように、調整し直すことはあなたの生きやすさにつながるでしょう。
適切な不安は、あなたを危険から守ってくれる。あなたの味方になる。そして極度な不安は、暮らしの中ではそんなしょっちゅうは発動しない。そんなふうに、不安を適正領域内で感知できる感度へと調整していくことになるでしょう。
ひとりで抱えるには苦しみ・不安が大きすぎる。そんな時は連絡ください。隣で一緒にゆったりと呼吸をし、あなたの気持ちに一緒に触れることで、ほっとする時間を提供できるかもしれません。何かお手伝いができるかもしれません。
ご縁に感謝しつつ。
今日は選択日和 いのうえ
参考:
S.W Porges(1995, 2010)
Hirsch & Clark(2004)
Hirsch (2012)
Hirsch (2018)
Rothschild(2000)
Lahad(2013)
Y.-C. Feng他 (2020)
Schultz (1932)
相澤(2015)
今野(2005)
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