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喪失体験 大切な何かを失ったあなたへ

ここへ訪れてくださったあなたは、何を失った痛みとともに、今ここにいますか?

・愛する人、自分に強い影響を与える人を失った・喪った

・予期せぬ妊娠で中絶を選ばざるを得なかった

・家族の一員だったペットが他界した

・待望の妊娠が流産という形で流れてしまった

・叶えたかった夢や理想の在り方をあきらめた

・馴れ親しんだ場所を離れなければならなくなった

・長きに渡って築き上げた立場、人間関係が変化してしまった

日本を離れて海外で暮らさなければいけなくなった

​他にも大切な何かを失った方がいらっしゃるでしょう。人は生きていく中で、大切にしていた何かを失い、身をもがれるような痛みとともに、悲嘆の底にうずくまり、立ちすくみ、前に進めない。そんな喪失体験をすることがあるでしょう。大切な何かを手放す経験のないまま、この長い人生を生き切れる人はほとんどいないのではないでしょうか。

喪失には小さいものから大きなものまで。ライフステージの変化において誰もが経験するものから予想だにしないものまで。突然に起こるものからゆっくりと時間をかけて失うもの、目に見えるものから見えないものまで*5、その時その喪失に本人が気づいていなかったり、自分の意志で手放した時でさえも、喪失には痛みが伴います。喪失体験は実に多種多様であり、それぞれの痛みとストレスが伴います。

■中絶の後の悲しみは悼まれる機会をほとんど持たれない

予期せぬ妊娠、人生のタイミングに合わず、心と状況の準備ができずに迎えてあげられなかった命の種があったことを、わたしはカウンセリングの場でたくさんお話を聞く機会がありました。

別のテーマでカウンセリングを始めて1,2年経た時に、若い頃の中絶経験について初めて語るといった形で出てくることがあります。また堕胎をして何十年たってやっと、ずっとあった悲しみに触れることができた、悼む機会をカウンセリングで持つことができた方がいます。

 

■家族のタブーになることで二度な無きものにされてしまう
思い出したくない出来事、言葉にされる機会をほとんど与えられない堕胎の体験。繊細な感性をお持ちの方ほど一層重く捉え、語ることもできず、思い出すことを極力さけようとすることで、人生に影を落としてしまったり。

明るい性格だった自分が変わってしまったのは中絶の経験からだと、どこかで気づいて生きてきた方がいたりします。これは自己像の喪失が起こっているといえます。

すでに婚姻関係の中にあり、他に幼い子どもがいる夫婦が、高齢出産のリスクを考えて、新たな命の種に対して堕ろす選択に至たることも少なくないでしょう。

起こるか分からない、でもリスクは一子二子より高い妊娠。正解のない大きな問いかけ。

話し合えるいい夫婦関係のなかで、限られた時間のなかでも話し合いがちゃんとされ、夫婦で選んだ決断であったとしても。手術台での冷ややで悲しみ深い経験は女性だけが体で引き受け記憶する。彼女がのちに抱える悩みや引きずる感情をも分かち合うことを引き受けてくれる夫がどのぐらいいるでしょうか。

育っていく長子の後ろに、産むことを選ばなかったもう一人の子どもの不在の影を見て感じることを話せる妻、聞ける夫がどのくらいあるでしょう。

体でこの出来事を経験するのは女性だけです。夫婦、男女のはざまでこの話題が話されることが少しずつタブーになっていってしまうこともあるでしょう。

目を背けられ、ないことにされ、蓋をしたタブー。語られない、不在の存在は場に影響を与えます。場合によっては存在するもの以上に家族に影響を与えます。

繊細かつ勘の鋭いお子さん(長子)は、決して語られない母親の決断に何かを感じ取っている場合があります。生まれてこなかった姉妹のことを悲しみとして家族の不在として感じた記憶、母親が抱える悲しみや恐怖を感じ取った記憶を覚えたまま大人になっている方もいます。きっと母親は子どもの気づきに気づいていないでしょう。

■産まれる機会をもたなかった命の種を家族のタブーにしないグリーフケア

家族のタブーとせずに、悲しみが悲しみのままで在れる時間を持つことで静かに昇華していく何かがあります。現代社会の暮らしにおいて、お仕事を持ちながらそのリズムで歩幅で生きられてる人はわずかでしょう。

喪失体験へのケアは、心理学の世界ではグリーフセラピー 悲嘆のセラピーと呼ばれています。

わたしとのカウンセリングの中では、過去の出来事を言葉にして語るばかりではありません。言葉で語り切れない経験は、絵を描いたり、色やイメージ、身体感覚を用いて、そのものを失った痛みや悲しみといった感情たちに触れて、時にお別れの儀式(ritual)をして昇華させることもできます。

こういった言葉に頼らない方法、時にヒプノセラピーを用いたりしながら、カウンセリングの安心安全の場所で、あなたの中絶の悲しみに触れてあげること、感情の弔いをすることはリチュアル/儀式のような時間となり、あなたの中でこの喪失経験へのとらえ方や伴う感情が静かに変化していくことでしょう。

 

ふと思い出した時に、圧倒するような怯えはなく、手に取れる痛みとして心の手触りを感じながら空に手を合わせられる出来事になっていけるかもしれません。

​​

一方で、今のパートナーシップにおいて、これが初めての堕胎ではないという方がいるかもしれません。

子どもを堕ろすことに伴うあなたの心と体の痛みは、彼には大したことではない、あなたの存在が軽んじられていることにあなたは気づき始めているかもしれません。

あなたの尊厳は守れていますか?あなたの犠牲が前提にある関係性を見直す、今の居場所を見直す方向でカウンセリングをしていくことは悲しみの繰り返しを防ぐのに有効かもしれません。

 

 

悲嘆のプロセス

 

ここで、3人の学者による悲嘆のプロセスを紹介したいと思います。何かを失った後にわたしたちが経験するであろう悲嘆のプロセス。彼らが、今のあなたの痛み、心の状態は「当然のことだよ」と言ってくれているようにわたしには聞こえます。心理学用語でいう「一般化」です。

彼らが示してくれたことによって、今、自分に起こっていることを客観的に知る機会になります。今、起こっていること、今後どんなプロセスが自分を待っているのか。それらを論理的に頭で理解することによって、心を圧倒している感情がほんの少し扱いやすくなるように感じられる方もいるでしょう。(そんなあなたは思考することに強みがある人たちです。そんなご自身の強み・特徴を心にとめておくことはいずれあなたの役に立つでしょう)


下にご紹介するのは悲嘆のプロセスです。

あなたは今、喪失体験のどのプロセスいますか?今の自分の状態を、少しだけ離れたところから観察してみましょう。

■アルフォンス・デーケン氏 悲嘆のプロセス12段階*1

 1)精神的打撃と麻痺状態

 2)否認

 3)パニック

 4)怒りと不当感

 5)敵意と恨み

 6)罪悪感

 7)空想、幻想

 8)孤独感、抑うつ

 9)精神的混乱と無関心

 10)あきらめ、受容

 11)新しい希望、ユーモアと笑いの再発見

 12)立ち直りの段階・新しいアイデンティティの誕生

■キューブラ・ロス氏 死の受容プロセス(1969)*2

 1)否認と隔離(事実として受け入れられない)

 2)怒り(なぜ自分だけが、といった怒り)

 3)取引(神仏へ祈る)

 4)抑うつ(無力感、抑うつ状態、絶望的な悲しみ)

 5)受容(静かな境地)

■ボウルビィ氏 悲嘆のプロセス4段階(1961)*3

 1)無感覚の段階

 2)否認

 3)絶望・失意

 4)離脱・再建

悲嘆のプロセスとは、喪失体験をした後、これらいくつかの状態をたどり、喪失した事実を受け入れて、ふたたび前に進めるような心持になるまでのプロセスです。この3人による悲嘆のプロセス、くつに区分するのか、どう名付けるのかに若干の違いがあるようです。

3人の悲嘆のプロセスにおいて、3人に共通しているものは「否認」

2人に共通しているものは「怒り」「抑うつ」「受容」「痲痺・無感覚」「再建・立ち直り」

最初はそれを失なったことを受け入れられない「否認」の時期があり、喪失した事実は「抑うつ」状態をひき起し、失う前にもっとできることがあったのではないかと「悔やみ」、かつてあったものがここにないことを「哀しみ」、なぜよりにもよって自分がこんな目に合わなければいけないのかと「怒る」。このように多様な感情の変化を時間をかけて体験していくもののようです。

 また、これらの悲嘆のプロセスはこの順通りではない場合や一度経たプロセスを繰り返すこともあります。

これらの悲嘆のプロセスを経る中で、今はここにいない大切なものとの出逢いに何らかの意味を見出したり、その人が気が付かせてくれたことを自分の中に取り込んだり、出会いに感謝する気持ちが湧いたり、とたくさんの感情を味わうことになるでしょう。

■グリーフワーク・グリーフケア

喪失体験へのケアは、心理学の世界ではグリーフワークと呼ばれています。わたしとのカウンセリングの中では、過去の出来事を言葉にして語ること、絵を描いたり、色やイメージ、身体感覚を用いて、そのものを失った痛みや悲しみといった感情たちに触れたり、時にお別れの儀式(ritual)をして昇華させることもあります。

■伝統行事・法事にみるグリーフケア

日本における伝統的な法要である、初七日、四十九日、三回忌といったものはまさにその役割を果たしていると言えそうです。「法事は生きている人たちのためのもの」法要でそういう話をされた僧侶がいました。昨今では簡略化されることが多いですが、その儀式、Ritualはグリーフワークのプロセスに沿っており、わたしたちが緩やかに大切な人を失ったことを受容できるよう、その人がいない世界を生きていけるようになるプロセスを、何度も何度も段階的に手助けしてくれている伝統的な知恵であると言えるでしょう。

■堕胎の深い悲しみ

予期せぬ妊娠、人生のタイミングに合わず、心と状況の準備ができずに迎えてあげられなかった命の種があったことを、わたしはカウンセリングの場でたくさんお話を聞く機会がありました。

別のテーマでカウンセリングを始めて1,2年経た時に、若い頃の堕胎について初めて語るといった形で出てくることもあれば、堕胎をして何十年たっても、未だ悲しみとして抱えている人生の先輩方に会ったこともあります。


言葉にされる機会がほとんどない堕胎の体験を、繊細な感性をお持ちの方ほど一層重く捉え、その人生にどこか影を落としてしまう。明るい性格だった自分を喪失してしまったのは堕胎からだったとお気づきになる方がいたりします。自己像の喪失が起こり得ます。

すでに婚姻関係の中にあり、他に幼い子どもがいる夫婦が、堕胎という選択に至たることも少なくないでしょう。育っていく子どもの後ろに、生まれる機会を持たなかったもう一人の子どもの不在を見る日々に痛みを覚えてらっしゃる方もいるでしょう。

また、繊細なお子さんは、母親の決して語られない決断に何かを感じ取り、生まれてこなかった姉妹のことを悲しみとして家族の不在として感じ続ける場合もあり、母親に恐怖を感じた記憶を持ち続けている方もいます。語られないことの存在は家族に静かに影響を与えます。不在の存在は場に影響を与える。

堕胎の悲しみに触れてあげること、感情と共に弔いをしてあげることで、少しの痛みを伴い思い出される過去の出来事として、自分の人生にあったこととして見つめられるぐらいになっていけることでしょう。

■子ども時代の喪失体験とグリーフケア

子どもが健やかに育っていくために必要なものが与えられない環境で育った場合。例えば、十分に子どもらしく遊べなかった、安心して過ごせなかった。虐待を受けていた。それらは目に見えない喪失体験と言えるでしょう*5。大人になって気づいてから癒しを始めることになるでしょう。今もあなたのなかにいる、子どもの頃の小さなあなたが抱える傷をいやしていくグリーフワークをしていく必要があるでしょう。時はかかるかもしれませんが、ひとつひとつ丁寧に感情に触れて表現してあげることで感情は癒され、薄く淡くなっていきます。その出来事を超えてきた自分を褒めてあげられるようになって、その出来事は過去のものになっていく、収まっていく。そのプロセスは、今の暮らしになんらかの変化を起こしうるでしょう。

喪失体験に伴う痛みや悲しみを伴う多様で濃厚な感情を涙とともに味わいつくすプロセスは、一人一人それぞれのリズムや速度、タイミングがあり、然るべき時間がかかるでしょう。そのプロセスの中で、心の痛みがだんだんとゆるやかになっていくことでしょう。

■喪失体験からの回復とはどんな状態でしょうか

喪失体験からの回復とは、どんなプロセスをいうのでしょうか。またどんな状態を回復というのでしょうか。

​​​もうここにはないもの。でもそれは本当にここにはないのでしょうか。

ここにいるあなたはそのものと過ごした時間のなかで受け取ったものを、そのものとの出会いの意味をすでにあなたの奥深くに取り込んでいて、共に生きている。人は誰かから受け取ったもので自分を作っていたりするのではないでしょうか。

自分の中にそのものとの出会いを、その存在そのものを取り込んでいくように、別れを不在を昇華/消化しながら、新たなバランスを取り直すこと、新たな自分を作り出すこと、喪失という大きな変化の後の壮大なバランスの再調整なのではないか、とわたしは考えています。

それをあなたの一部として引き連れた新しいあなたがふたたび前を向いて、ゆっくりと今を歩きだせるようになる。それが喪失体験を乗り越える、グリーフワークの結果たどりつく状態、回復なのではないでしょうか。

「一度出会ったものとは、本当の意味で別れることはできない​。そのものを自分の中に取り込んで、その先も連れて生きていくのだから」わたしはそう感じています。

■喪失に気が付かないケース

カウンセリングの現場では、ご本人が喪失したこと、そのものに気が付いていないという状態に出会うことがしばしばあります。抑うつや怒りといった感情の起伏にご本人がくたびれており、周りの人に当たってしまう自分を責めている、そういった表出の根っこに、何か大切なものを失った悲しみが横たわっていることがあります。それに気づくことで、プロセスが進んでいくことがあります。 

■恐怖が伴う喪失体験、あまりに突然の予期せぬ出来事による喪失

自然災害や事故にあった場合、まずは災害そのものへの恐怖や脅威の感情が緩和される必要があります。それが落ち着いた後、悲嘆のプロセスがはじまり、進んでいくと言われています*4。また、犯罪に巻き込まれたり自死といった突然の予期しない形で大切な人を失った場合は、複雑性悲嘆と呼ばれ、故人への葛藤した感情を丁寧に扱って整理したうえで、愛着対象としての故人との思い出を自分の中に取り入れていくようなプロセスが加わるといわれています*6。

■喪失体験が重なった場合。複合的な事象の中の悲嘆 

この度の喪失体験より以前に、感情的に引き受けきれないような深刻な出来事を経験していたり、同時期に複数の喪失体験をした方、幼少期の愛着形成に課題があるなどの場合は、より複雑で深刻な悲嘆のプロセスを経る可能性があるようです。


■時間をかけて、無理のないペースで、あなたのいろんな感情に触れてあげる

あなたは身近な人たちに、大切な人をなくした悲しみを伝えることができていますか?あなたの複雑で多様な感情を受け止めてくれる人はあなたの周りにいますか?

あなた自身はあなたの感情を受け止めて、触れてあげられていますか?


気持ちがあなたを圧倒してくる時もあるでしょう。言葉にならない気持ちはひとりで抱えるには大きすぎる。そんな時は連絡ください。隣であなたの気持ちに一緒に触れることで、何かお手伝いができるかもしれません。いつでもご連絡ください。

今日は選択日和 いのうえ

*1 Alfons, D

*2 Kübler-Ross(1969)

*3 Bowlby, J. (1961)

*4 白井(2011) 

*5 水澤(2007) 

*6 Prigerson, H.G (1995)

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